生涯を知る11のエピソード 7

7. 世界的アーティストがわざわざ下諏訪訪問(1975年)

イギリス現代アートのスーパースターギルバート&ジョージと知り合い、1971年松澤はロンドンの彼らの家を訪問。1975年ギルバート&ジョージは東京で日本初の個展のあと、京都経由でわざわざ下諏訪に来訪し、松澤家で一泊。有名なスーツ姿で下諏訪の街中と山中を歩き、瞑想台、プサイの部屋へ。

虚空間状況探知センターで語り合うG&Gと松澤 撮影:松澤久美子

ギルバート&ジョージは、イギリス現代アーティストのスーパースター/巨匠(2人組)。60年代より自分たちをLiving Sculptures (生きる彫刻)と呼び、自分たちの存在自体=生きていくこと自体をアートとして示すことで多くのアーティストに影響を与えています。“Art for All” というスローガンを掲げ、作品は常に挑発的、反権威主義的。2005年にはヴェネツィア・ビエンナーレにイギリス代表として出品。例えば、ミュージシャンのクラフトワークやデビッド・ボウイが影響を受けたとも。

そんな2人と、松澤は個展を開いたアムステルダムの著名な現代美術ギャラリー、アート・アンド・プロジェクト画廊のラヴェスタイン氏を通じて知り合い、1971年ヨーロッパ行脚の折、ロンドンの2人の住まいその名も”Art for All” を長女の久美子さんと二人で訪問。その時のことを記した「G&G氏との一昼夜」という素敵な一文が美術手帖1972年11月号 P.210-211 に。少し引用します。

「ひと眠りしてなに気なく部屋のドアのそとに出て見ると、ドアの足もとの床に、ありあわせのコダックの印画紙の黄色い紙袋をうまく折って立つようにして、『ジョン、ふたりの愛する日本人が眠っています。ありがとう。G&G』と走り書きしてあった。おそらく訪ねてくるかもしれない友人に対することわりだろう。G&Gのこの心づかいと丁重さ!これは彼らの、世界に対する心づかいと丁重さ、と誰かが言っていたが」

「ああ、それから街に出て、二階バスにのり、タワー・ブリッジの真中で写真をとり、テムズの岸に降り、ロンドン塔をまわって、船つき場に行った。夕暮れの最後の遊覧船が出たあとだった。それからタクシーをひろって居酒屋に立ち寄った。その間じゅうG&Gは僕たち父娘の前でコンビのポーズをしつづけた。いつ写真のシャッターを押しても、全てG&G氏の絵になっていた。このポーズはG&Gの、世界に対するポーズだろう」

4年後の75年、東京で日本初の個展のため来日した2人は、京都経由で今度は下諏訪の「虚空間状況探知センター」(松澤家)を訪れ一泊。ギルバート&ジョージは常にイギリス紳士の象徴であるスーツ姿で「生きる彫刻」として振る舞うことが有名ですが、下諏訪でもスタイルは崩さず「プサイの部屋」そして、山中の「泉水入瞑想台」ビシッとしたスーツ姿で訪問した映像が残っています。また松澤家のこたつで松澤一家と語らうとても素敵な写真も。

ギルバート&ジョージは、70年代「ニルヴァーナ展」など松澤たちが企画した「展覧会」にも作品を提出しています。松澤のアーカイブには、彼らからの親愛の情のこもった展覧会への招待状などが数多く残されており、親交の深さが伺われます。

彼らと松澤は、従来の美術の型にハマらない「生きること=アート」という考え方で共鳴していたのではないでしょうか。

*まさに松澤生誕100年のこのタイミングで、東京・表参道にあるエスパス ルイ・ヴィトン東京(ルイ・ヴィトン表参道ビル7階)で、ギルバート&ジョージの日本では12年ぶりの個展「CLASS WAR, MILITANT, GATEWAY」が開催中。(2021年10月14日〜22年3月6日)ぜひ見に行きましょう。

**「作品である自分たちの姿」の写真掲載を快く許諾いただいたG&G氏に深く感謝いたします。