芸術を知る11の作品

本質は変わらないまま、松澤の「作品」は驚くほど多様で常に変化をし続けました

5. ピンクののぼりで人類に檄(警告)! 〜「消滅の幟」(1966年〜)

代表作とも言えるピンクののぼり=「消滅の幟(のぼり)」。「消滅しよう」と人類に向けた、衝撃的なメッセージ。本気なのか、皮肉なのか、もしくは真摯な警告か。松澤はこののぼりを世界中で何十回も広げ続けた。

「人類よ 消滅しよう 行こう 行こう/ギャテイ ギャテイ 反文明委員会」
 ”All human beings! Let’s Vanish, Let’s Go, Let’s Go, Gate, Gate, Anti-Civilization Committee” (英語訳)

強烈なメッセージが書かれたピンク色の「のぼり」は、1966年8月堺市体育館「現代美術の祭典」で世に出されました。その名も「消滅の幟(のぼり)」。その後、諏訪 御射山・諏訪湖・山王閣(地元のホテル)、東京 国立近代美術館前・東京都美術館、広島 広島市現代美術館、スウェーデン ストックホルム、オランダ ソンスビーク・ロッテルダム、ドイツ シュトゥットガルト、イタリア ボローニャ、フランス パリ、スイス フルカ峠、アメリカ サンフランシスコ、ブラジル サンパウロ、オーストラリア ニューサウスウェールズ、など世界中で広げられています。松澤宥の代表作は、といえば「ピンクののぼり」という方も多いでしょう。

のぼりの高さは約20メートル。諏訪の御柱の高さに近いのでは、という美術家嶋田美子さんの指摘も。諏訪地方の方なら、お祭りの際によくのぼり(色は白地に黒(笑))が立つのをみたことがある人も多いのでは。あるいは、地元の高校の文化祭などでも。松澤は、そんな地元の風景からヒントを得たのかもしれません。

それにしても、物騒なメッセージ。彼は人類を消滅させたかったのでしょうか?あるいは消滅を嘆き、絶望を謳うペシミスト?物質消滅と人類消滅、「消滅」は松澤の生涯を貫くテーマであることは間違いありません。

本当のニヒリストはこんなことをわざわざ表現するかどうか。私たちはこれを人類への檄(警告)とも受け取れるのではと考えます。嶋田さん曰く「松澤の一連の作品と自筆文章をよく読んでみれば、松澤がニヒリズムとは遠いところにあり、『人類の消滅』はよりよき世界のための反語であることがわかる筈」(「ニルヴァーナからカタストロフィーへ 松澤宥と虚空間のコミューン」(オオタファインアーツ)2017 P.307)

赤ん坊を幟の隣で抱いている松澤の写真は、それを示しているのかもしれません。

(完全に余談ですが、若い頃パンクの洗礼を受けた筆者にはこの幟が、セックス・ピストルズの有名な“Never mind the bollocks”(邦題「勝手にしやがれ」)のアルバムジャケットに「ある意味で」似ているように思ったりします。)