芸術を知る11の作品

本質は変わらないまま、松澤の「作品」は驚くほど多様で常に変化をし続けました

3. 「新しい芸術」の説明チラシ?〜 <プサイの死体遺体>に就いて(1964年)

「オブジェを消せ」の直後に発表された「<プサイの死体・遺体>に就いて」はなんと1万部の「チラシ」の作品。そこには、新しく「発見」された「『非感覚絵画』(仮称)」についての懇切丁寧な説明が!9つの正方形が並ぶ曼荼羅形式は松澤の得意技です。

松澤は1964年6月1日深夜に「オブジェを消せ」という声を聞き、3日後の6月4日に「美術を文書だけで表現」することを決意。(参照→エピソード5「<プサイの死体遺体>に就いて」はその直後6月20日〜7月3日に都美術館で開かれた<アンデパンダン’64展>で「チラシ」として1万部撒かれました。

彼の作品に多く使われる金剛界曼荼羅の形式(3X3 9つの正方形)を採用。中心から始まり、下に降りて時計回りにぐるっと右下が最後になります(わざわざ小さな四角に読み順が書いてあるのが素敵)。

一見難しそうですが、松澤は新しく「発見」された「『非感覚絵画』(仮称)」についてとても誠実に一生懸命説明をしてくれているように思えます(以下超乱暴な要約。原文を読んでいただくことを強く推奨します)。

「『非感覚絵画』(仮称)」は、眼に見えないが、正真正銘この展覧会に出品されています。感覚による認識はできません。例えば「膨張する宇宙」や「量子」などのように、この世界には感覚では捉えられなくても、数学や実験によって実在は確かめられているものが存在するのです。であれば、芸術作品もそうした形で存在しうるはず。それこそが、未来の絵画の絶対的な形式になるのです。そして、それはすでにあなたの中に入り込んでいます…。

この丁寧で不思議でちょっと洒落がきいた言葉を読むと、松澤はとても真剣に他者とのコミュニケーションを希求していた人だったのではと思われます。