芸術を知る11の作品

本質は変わらないまま、松澤の「作品」は驚くほど多様で常に変化をし続けました

6. 諏訪湖に作品を見せる〜メールアート(1967年〜)

特定の個人に送られた「ハガキ」による作品。毎月一通ずつ12回、2年で24回送られてきた「観念の通販」「サブスク」?人間以外(動植物はもとより、岩や湖など無生物含む)に作品を見せる、とのメッセージ。アート=人に見せると言う常識への挑戦か、もしくはアニミズムへの回帰なのか?

松澤が1967年から始めた「ハガキ絵画」。有名なものとして67年〜68年と70年〜71年のバージョンがありますが、67年〜68年版を少しご紹介。

ハガキは、ひと月に一通ずつ、計12回送られてきます。どれも似た形式ですが、毎月文字の色が変わったりしています。微妙に芸が細かい!ハガキ「絵画」と言っても絵は書かれてはなく、それぞれ独特のメッセージが。受け取った人は、それを読み取って自分の心の中に「観念の絵画」を描くしかありません。いわば「観念の通販」「サブスク」?

記念すべき一通目は「すべての生物及び無生物のための白紙絵画」。表面は「白色根本絵画」と名付けた白紙。(これは全12回共通)裏面(住所の欄の下)にはメッセージが書いてあります。それによれば松澤はこの「絵画」を色々な相手に見せる、とのこと。見せる相手は、人間だけでは無く「岩にも木にも天にも鳥獣にも」「音楽にも自己増殖機械にも」。

翌月のハガキには「湖に見せる根本絵画展」とあり「人間に見せるものではなく 文字どおり湖に見せるものである」。 湖は多分諏訪湖ですよね。アート=人に対して何かを表現するもの、という常識へのラディカルな挑戦とも。その後も「霧と霊に見せる絵画展」「絵に見られる松澤宥個展」…と続いていきます。「電話メディアによる情報絵画はクールである」なんて回も。

日本人の宗教観は、神道や密教などをはじめ「アニミズム」*的と言われます。密教には「草木や国土のような非情なものも、仏性を具有して成仏する」(草木国土悉皆成仏 そうもくこくどしっかいじょうぶつ)という考え方があるとのこと。もちろん、日本以外にもこういった宗教観、文化をもった民族は多くあります。近代以前の社会ではごく普遍的に存在した考え方かもしれません。

松澤の作品を殊更「日本的、東洋的」と解釈する必要はありませんが、諏訪の古代信仰や密教に深い造詣があったのは確かで、そういったこととこの作品は関係あるかもしれません。

「湖に見せる根本絵画展」は次の言葉で結ばれています「人間は無数の見えないものから挑戦を受けている 見えないものを見 見えるものを見ないことを今や人間は学ばねばならない」

*「生物・無機物を問わないすべてのものの中に霊魂、もしくは霊が宿っているという考え方」(Wikipediaより)